「考える図書館」〜一人ひとりの心によりそって〜

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「通信あけのほし」276号を発行しました

支援者向けニュースレター「通信あけのほし」276号(12月5日号)を発行しました。
最新号の276号(2023年12月5日号)より巻頭言と館長挨拶を以下に掲載します。

  巻頭言 聖地の混乱という悲劇   菊地功(きくち いさお)

 年末が近づいて、日本でもクリスマスのお祝いが当たり前のように行われる季節になりました。
 聖書には、クリスマスの出来事、つまりイエスの誕生はベトレヘムで起こったと記されています。ベトレヘムはヨルダン川西岸のパレスチナ自治区にある町です。よく知られたエルサレムという町は、国際社会が認めていないものの、イスラエルが首都と定めています。そのすぐ隣のベトレヘムはパレスチナ自治区にあります。
 今年の10月頃から始まったイスラエルによるガザ攻撃は、「聖地」の現実を象徴しており、それは偶発的出来事ではなく、長い歴史を背負った人類の悲劇の一つです。
 「1947年以前に戻らない限り、何も解決しない」という一言が、今でも耳に残っています。カリタスジャパンの視察でエルサレムを訪れた2000年7月の末のことでした。イスラエルが管理する西エルサレムで、パレスチナ人の知人が、「是非とも見せたいものがある」といい、ある一軒家に連れて行ってくれました。ご本人の家ではありません。他の人が生活している家です。ところがその住人に声をかけるでもなく庭まで入り込み、一本の木を指さし、「この木は、わたしの父親が生まれた記念に、祖父母が植えた木だ。ここは私たちの家だったんだ」とつぶやかれました。
 イスラエルという国は、19世紀末頃からの「シオニズム(イスラエルの地にユダヤ人の故郷を再建する運動)」の流れの中で、1948年に誕生しました。そこは、パレスチナ人が生活をしていた地でもあります。
 1947年11月29日、国連総会はパレスチナの分割を決議し、地域の57%をユダヤ人に割り当てることを決定しました。そして1948年のイスラエル建国、さらにはそれに引き続いた第一次中東戦争。その混乱の中で、当時70万人に及ぶパレスチナ人が住む家を失い難民となったと記録されています。現在のパレスチナ難民の始まりでした。知人の父親もその一人だったのです。新しい国家が誕生し、その代償として長年住み慣れた土地と家を失った人々は、失ったものを取り戻さない限り平和は訪れないと主張します。
 もちろん歴史的背景として20世紀初頭の英国による、いわゆる「二枚舌政策」にあることはよく知られていますが、それにはまたいずれ触れましょう。
 イエス・キリストの誕生という、いのちの尊さに思いをはせるこの時期、「聖地」を支配するのがいのちを奪う暴力であることほど、悲劇的なことはありません。

  急成長する音声ビジネス  館長  平井利依子(ひらい りいこ)

 「音声ビジネス」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。今、メディアでも多く取り上げられており、情報提供事業を行っている私たち、図書館の立場からしても気になります。
 視覚障害者もよく利用しているラジオですが、今は「音声コンテンツサービス」とよばれ、ネットラジオとして、インターネットを通して、スマートフォンでも聞けるようになっています。また、朗読した本を聞くオーディオブックも、CD を媒体として販売していましたが、今はスマートフォンのアプリから聞くことができます。同じスマートフォンアプリで「聴くドラマ聖書」というものもあり、私は利用者から教えてもらいました。有名な俳優が朗読しており、臨場感たっぷりで、本当にドラマ仕立てでした。ほかにも音声コンテンツを配信する音声配信サービスなどもあります。制作コストを抑えられ気軽に始められるそうですが、「ながら」聴きの需要も増加しているようで、今後もあらゆるサービスが増えていくだろうと思われます。
 先日、ある書店でキャンペーンを行っていました。株式会社オトバンクが提供している聴く読書「オーディオブック」の聴き放題プランが1ヶ月無料というものでした。小説、ビジネス書、新刊やベストセラーなど、15, 000冊以上のラインナップがあるそうです。俳優、声優、アナウンサーなど、プロの朗読で聴きやすいと謳っていました。
また、オトバンク社長の講演会に参加する機会があり、このサービスをするに至った背景がわかりました。ご自身が音声学習によって大きな成果をあげられたとのことです。またお祖父様は視覚障害者だったそうで、その姿が印象に残り、オトバンクを創業したそうです。健常者に聞く文化を広げればその先の障害者にも届くかもしれない、まずは一般向けとして起業し、聞く文化を広げようと考えたそうです。2022年には「超効率耳勉強法」という著書も出版しており、耳と脳の関係も研究しています。
 さて、オーディオブックと図書館が業務としている録音図書の製作とどう違うのか。オーディオブックは聞いてわかりにくいものは別の言葉に読み替え、図表は読み上げずに添付資料としてアプリで表示するそうです。音楽や効果音が入り、文芸作品などは読み手の演技が入ります。
 音の図書は、それぞれの役割があり、利用者の違いもあります。だから音訳による録音図書製作も大切とのことでした。
利用者にとって、どちらも聴く読書ではありますが、選択肢が多いことはとてもいいことだと思います。特にビジネス書でタイムリーな図書は、点字図書館や公共図書館ではあまり製作しません。また、誰にでも利用できること、特別な機器を用意しなくてもいいというのは、嬉しい限りです。
 課題は、スマートフォンが使えるということが前提なので、私たちがその支援をしっかりしなくてはいけないと思っております。
 今後もさまざまな音声ビジネスが登場すると思いますが、誰にでも関係なく、聞いて楽しんで、豊かな日常を送りたいですね。

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